2019.08.05

同期が売れてもムカつくし、辞めてもムカつく。奥山雄太×竜史×内田倭史が振り返る大学演劇の汗と涙

同期が売れてもムカつくし、辞めてもムカつく。奥山雄太×竜史×内田倭史が振り返る大学演劇の汗と涙

現在、小劇場シーンで活躍する劇団のルーツを辿ると、大学演劇に至ることが多い。特に、第三舞台、劇団ラッパ屋、演劇集団キャラメルボックス、ポツドールなど数多くの劇団を輩出しているのが早稲田大学だ。
近いようで遠いような小劇場と大学演劇。そこで今回は伝統の早稲田で大学演劇にふれた、ろりえ主宰の奥山雄太、20歳の国主宰の竜史、そして劇団スポーツ主宰の内田倭史の3人に、大学演劇について語ってもらった。

奥山雄太(おくやま・ゆうた)

1987年5月28日生まれ。神奈川県出身。ろりえ主宰。大学時代は早稲田大学演劇倶楽部(通称エンクラ)に所属。Twitter:@rorie0980

竜史(りゅうし)

1988年3月21日生まれ。茨城県出身。20歳の国主宰。大学時代は劇団木霊に所属。Twitter:@muriryushi

内田倭史(うちだ・まさふみ)

1996年2月15日生まれ。大分県出身。劇団スポーツ主宰。大学時代は早稲田大学演劇倶楽部(通称エンクラ)に所属。Twitter:@friction8215

新人訓練ではひたすら「面白くない」って言われていた。

まずは「大学演劇あるある」について聞かせてください!

とりあえず先輩が厳しい(笑)。

謎に厳しいですよね(笑)。僕のいたエンクラには新人訓練というのがあって、そこで身体だったり滑舌だったりを鍛えるメニューをやるんですけど、これが厳しくて。しかも先輩たちはみんな同じメニューを経験してきているから辛口なんですよ。

やたら煽るんだよね(笑)。

訓練の中にエチュードを使って演劇を立ち上げようというのがあるんですけど。

「声が小せえ!」とか「面白くねえな!」とか先輩からバンバン声が飛んでくる。

そんな罵詈雑言が…!

いや、罵詈雑言ではないです。

叱咤激励です。

(ハモった)。

僕と内田くんのいたエンクラは夏に新人訓練があって、それが終わったら新人公演をするんです。そこまでが訓練期間。で、先輩たちの叱咤激励が罵詈雑言に聞こえる人は、この時点で残念ながら辞めちゃうわけです。

僕はひたすら「面白くない、次」って言われました(笑)。いろいろアイデアを持ってきて先輩の前で見せるんですけど、いくらやっても「面白くない、次」って言われて、また新しいのを考えなきゃいけなかった。あそこでメンタルは鍛えられました…!

養成所や高校の部活だとちゃんと教える人がいるじゃないですか。でも大学の演劇サークルは基本的にみんなプレイヤーになりたくて入ってきている。だから指導のノウハウもないし、技術を教える自信がないんです。

その結果、まず教えられるのはハートの部分。だから「テンションを高く」とか「もっと面白いこと」が求められるんだと思います。ある意味、養成機関としては非常にシンプルというか。

第一歩としては理にかなっていますよね。

学生の頃は他の劇団をディスることで自信を保っていた。

訓練って具体的にどんなことをするんですか?

たとえば稽古に入る前に、(ウォーム)アップをするんですけど、みんなが芝居のできる状態になるまで延々やったりします。

その状態に入ったかどうかは誰がジャッジを…?

それは見ている先輩がよしと思ったら、です。

音楽をかけて身体を動かしたりするんですけど、僕らの状態ができてねえなと先輩が判断したら、先輩がよしと思うまで延々アップが続くんです。で、結局、今日の稽古はアップしかしてねえなって日もある(笑)。

ある(笑)。アップして終わりみたいな。

不条理。

大丈夫ですか? これ、ネガキャンになってませんか!?

でも今でも無駄だったとは思わないですね。

で、そういう厳しい訓練を乗り越えて新人公演が終わると、いきなり先輩からすごく優しくされるから、いい団体だなって思っちゃう(笑)。

あと、あるあるなのが、他の学生劇団へのディスり(笑)。小劇場とか外に出るようになってからはそうでもなくなったけど、学内で活動しているときは、「これこれこうだから、あそこはつまんねえんだ」みたいな話が同期のあいだでいちばん盛り上がった。今考えると、なんて狭い世界でやってるんだって思うんだけど…(反省)。

その頃はね……。やっていることに対して「自分の方が面白い」って自信を持つためにも、他をディスることはあるよね。

それは確かにある。特に早稲田は学内に演劇サークルがいっぱいあるから、余計にそういうところがあるかも。

学生の頃は「超演劇やっているな~!」って感じがした。

じゃあ話題を変えて、大学演劇をやっていた頃のきらめく想い出を聞かせてください。

やっぱり公演中ですかね。僕らが現役の頃はエンクラ内にユニットがいっぱいあって、だから2週間に1本は誰かが本番をやっている状態だった。それを観に行ったり、手伝ったり、もちろん自分もつくったりしていたから「演劇超やっているな~!」って感じがして、きらめいていた記憶はある。

それだけやっていると、そりゃ授業も行かなくなりますね…。

行かないですね…(小声)。

僕が早稲田で演劇をやっていてきらめいていたなと思うのは、3年のときに新歓をやったんですよ。僕らのいたエンクラはずっと人数が少ない時期が続いていて、とにかく人を増やしたいという気持ちがあって。

ちょうどそのとき、同期が犬大丈夫、ひとつ下の後輩がいいへんじという団体を立ち上げて。僕ら劇団スポーツと合わせてエンクラ内に3つもユニットがあったんですね。それでこれは今頑張るしかないって新歓の時期に3本連続で公演をやりました。

すごく久しぶりにサークルとして活動できた感じがうれしかったし、そのおかげで8年ぶりにエンクラとして本公演が打てたんですよ。

そんなに本公演がなかったんですか。

エンクラって新人公演が終わったら、あとは活動が自由なんです。個人がバラバラに好きなことをやっていいよっていうサークルだから、なかなかみんなでひとつのことをやることがなくて。

逆に、同じ学内にある劇団森とかはみんなで盛り上がっている感じがして。そういう雰囲気に憧れていたので、みんなで本公演ができたのは、きらめく想い出でした。

大学1年の本公演、与えられた役はめだかAだった。

竜史さんはどうですか? きらめく想い出は何かありますか?

僕は…ないんですよ…。

ないんだ。

それよりもキツかった想い出の方が強くて。僕は劇団木霊というサークルにいたんですけど、なぜか最初は妙に自信があって。実際、入ってすぐの公演は主役みたいなポジションで。その次の公演も1年生なのに役者で選んでもらって。調子に乗った僕は、その次の本公演でメインの役をやってもう辞めてやると息巻いていたんですよ。

そしたら、その本公演でもらった役が、めだかA。

主役からめだかA…!

と言うか、めだかが出る劇ってどんなのだ…。

木霊ってスタッフもやらなきゃいけない劇団なんですけど、入ったときから「俺は役者しかやらない」って豪語してて。その意気込みは買ってもらってたんですけど、実際やってみたらコイツ全然面白くねえわということで、めだかAまで格下げされました(笑)。

むごい。

しかもそのめだかAがいわゆるアンサンブルなんですけど、アンサンブルが10人ぐらいいて、その10人全員が役のためにスキンヘッドにならなきゃいけなかった。

すげえ!

そのときはもうずっと早くこの公演が終わってほしいと思っていました(笑)。ただ、このまま辞めるわけにはいかないなと。いつか主役に返り咲くぞという気持ちで続けたんですけど…。

2年の冬に同期に言われたんですよ、「お前はつまらないやつだから」って。

ええっ!

でもその同期が自分を引き上げてくれたというか、その言葉があったから「自分は面白くないけど、面白くないなりに頑張ろう」と思えるようになった。その気づきが、自分の中では大きかったですね。

やっぱり同期の存在は大切だよね。作風や演劇的な趣向は本当にバラバラなんだけど、あの日々を一緒に乗り越えた仲間で今も演劇を続けている人はできればずっと続けてほしいなって思ってる。

同期の良さは、同じ言語を持っていること。そういう相手はなかなかいないから特別だなと思う。だから卒業したあとも同期の動向は気になる。売れてもムカつくし、辞めてもムカつく(笑)。

わかるわ~。

ここ、太字で書いてください(笑)。

大学演劇では、面白くなりたい人とたくさん出逢えた。

3人とも今は大学演劇を卒業し、それぞれの道に進んでいますが、大学演劇で得たもので役立っているものって何ですか?

それは馬力でしょう。誰にも頼らず根性で何とかしていく百万馬力を高田馬場で得ました(笑)。

確かに。あんだけ訓練していたのに、一切テクニックとかない(笑)。

大体の人が、スタニスラフスキー・システムとか知らないでやってるもんね(笑)。

知らないです(笑)。だから冷静に考えると、3ヶ月、サークルで厳しい訓練をするより、どこか養成所でメソッドを学んだ方がよっぽど実戦的なんですけど、そういう役に立つとか立たないじゃない何かが大学演劇にはあって。それは本当に馬力という言葉でしか言い表せない気がします。

人間力がつくね。俳優として成長できるかはしらないけど、間違いなく人間としてたくましくはなれる。

何もわからなくてヘラヘラしていた大学生でしたけど、いざとなったらやるぞっていうパワーを大学演劇からもらった感じです。

テクニックじゃないものがテクニックを凌駕する。そういうことがあるんだと知れたのは大きいかも。上手いんだけど面白くない俳優はいっぱいいて。技術だけが絶対じゃないんだと。お芝居をする上で多様性を知ることができたのは大きかった。

あとは、大学演劇をやっているのって、面白くなりたいと思ってる人たちがほとんど。だから常に「もっと面白いことしてんだよな」と言ってるし、「もっと面白いところに出てえ」とウズウズしている。そういう人と早い段階で出会えたのはすごく良かったと思います。

失敗してもいいから、学生のうちにどんどん公演を打った方がいい。

では最後に、もっと上手くなりたい、面白いものをつくりたいとモヤモヤしながら大学演劇に打ち込んでいる人たちに伝えたいことがあれば、ぜひ聞かせてください。

学生のあいだにとにかく本数をやって露出しまくった方がいいと思います。卒業したら劇場を借りるのにいちばんお金がかかるから、公演を打つチャンスがどんどん減っていくんですよね。でも、学生のうちは稽古場も劇場も学内の施設が無料で使えることが多い。この違いは大きくて。

むちゃくちゃやって、失敗してもいいから、手数を増やす。失敗できることって、学生演劇のメリットだと思う。どうしてもプロの劇団になると、失敗ができなくなる。リスクがないうちにどんどん失敗して、自分の下手くそなところとか武器を知るといいと思う。

あとは勉強してからやるんじゃなくて、やると決めてから勉強した方がいいと思う。演劇は、やると決めてすぐにできるものじゃないから。準備期間があったり稽古があったり、本番までに何ヶ月か時間がある。どうせ勉強するなら、その間に勉強した方が効率的だと思うんですよね。

正直、最初の3公演ぐらいは初期衝動でできるんですよ。初期衝動だけで通用しなくなるのは、それ以降。そのときに何が効いてくるかって、その最初の3公演の間にどれだけ勉強したかなんですよね。だからまずやると決めて、自分が表に立てる場所をつくる。そして、そこから勉強することが大事だと思います。

僕はまだ人にアドバイスできるような立場じゃないんですけど、振り返ってみて良かったなと思うのは、自分の所属したエンクラが新人公演が終わったらあとは自由っていう団体だったから、何かやろうとしたら必然的に外に出ていくしかなかったんですね。

自分たちだけでやる楽しさももちろんあると思うんですけど、早い段階でそうやって学外の人とか大人とやれたのは世界を広げるという意味でも良かったなって思う。それこそ手当たり次第ワークショップを探して受けてみたりとか。

それはある。僕も学生の頃は、学生の枠でやらないっていうのだけは決めていたから。学生の間に大阪で公演を打ったのも、それが理由。そこまでやらなくてもいいんじゃない?っていうぐらい舞台美術に力を入れたり。

学生のできる範囲でやっていても目立たない。だから、二手ぐらい飛び抜けたことをやることを常にテーマにしてましたね。

外に出てみたら、自分たちではめっちゃ面白いと思っていたことが、外では通用しないことがわかったり。学内だけでやって、お山の大将になるのはそんなに難しくないと思うんです。でもそれだけだと、いずれつまらなくなる時期がやってくる。

外に出て良かったなと思うのは、面白いことを続けている大人にたくさん出逢えたこと。自分の中の大人のイメージが変わったのはすごく良かったと思います。


まだまだ続く大学演劇OBのクロストーク。後編は、大学演劇出身の彼らが自分たちの劇団を運営していく中で感じたことをお話しいただきます。お楽しみに!
 
取材・文・撮影:横川良明

INFORMATION

ドラマL『ランウェイ24』

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ろりえ新作本公演も2019年12月下旬に下北沢・駅前劇場で上演予定!

舞台『No.2』

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DULL-COLORED POP第20回本公演「福島3部作・一挙上演」

劇団スポーツ主宰・内田倭史がDULL-COLORED POPの最新公演に出演。“福島三部作”と銘打たれた本作で、内田は第一部の『1961年:夜に昇る太陽』に主演する。谷賢一が3年間かけて取材・構想・執筆した渾身の大作。夏の演劇シーンを揺るがす1本になる予感。