2017.04.20
【稽古場レポート】ポップンマッシュルームチキン野郎『死なない男は棺桶で二度寝する』『オハヨウ夢見モグラ』


吹原幸太の脚本・演出作品を上演する劇団。
2005年結成。2014年秋公開映画『日々ロック』やNHKアニメ『ガッ活!』等々、多方面で活躍中の脚本家・吹原幸太が、愉快な仲間達を道連れに、親の仇を討つかの如く危険な笑いと愛に挑む!
荒唐無稽のK点越え!!それが【ポップンマッシュルームチキン野郎】である。
F1のようなスピード感!圧倒的な筆力と演出力!そして人知を超えた驚異の演技力!
それらをフルに活用してナンセンスな笑いと重厚なドラマを同居させ、通常では相容れないようなアンビバレントな感情を呼び起こす悲喜劇を得意とする。
これまでに、2012年度サンモールスタジオ最優秀演出賞、2013年度黄金のコメディフェスティバル最優秀作品賞、優秀演出賞を受賞している。
今度のPMC野郎は、殺陣でも魅せる!
春の嵐が駆け抜けた4月の東京。PMC野郎の稽古場を覗くと、何やら異様な熱気が…。
木刀片手に殺陣稽古に励む俳優たち。
あれ? 稽古場間違えた?
ここ、PMC野郎の稽古場で合ってます?
そう、今回の『死なない男は棺桶で二度寝する』では、和物の殺陣が登場するのです。
PMC野郎の殺陣と言えば、『独りぼっちのブルース・レッドフィールド』で登場したアクションシーンが強烈でしたが、今回はあのときみたいに銃の代わりにカメラで早撃ちとかしない! 刀がいきなりフランスパンになったりしない!! 文字通りの真剣勝負です。
タイトル通り、死なない男を演ずる吉田翔吾さん。
決して無敵の剣客ではありません。むしろその逆。ごく平凡に生きていた男です。そんな温厚な男がなぜ血みどろの死闘を演じなければならなかったのかーー答えは本編を見てのお楽しみとして、今回、殺陣師を務める劇団◯組の青山太久さんによる殺陣は、「血生臭い」の一言。
吹き出す血しぶきが、皮膚の裂け目が、こぼれおちるハラワタが、ありありと浮かんでくるような殺陣です。「華麗」「颯爽」という形容詞とは対照的。目を伏せたくなる凄絶な斬り合いが立ち上がっていきます。
刀を避ける仕草にも、青山さんのこだわりが。
本来の殺陣であれば、刀を避けるときは身体を大きく振って派手に見せるのがセオリー。しかし、そんな吉田さんの動きを見た青山さんから、逆に「後ろにのけぞって」とオーダーが。見え方としては、とても無様です。
けれど、吉田さんが演ずる男は、先程紹介したように決して剣豪ではありません。あくまで、ただの弱っちい、市井の男。ならば、カッコよく動くのではなく、生々しいリアクションを見せる方が、ずっとキャラクターが活きてくる。「血生臭い」と感じた殺陣は、一人ひとりの人間性や生き様を投射した太刀筋から生まれてきているようです。
対する加藤慎吾さんは、さすがの風格。この平成の世に、ちょんまげ姿がこうも似合う人はそういねえぞ! 塩顔ブームを逆行する加藤さんの漢らしい顔立ちにぴったりの役どころ。ゲスな悪役を痛快に演じています。
時にヘビーに。時にホラーに。いろんな味が楽しめる極上短篇集。
前述した通り、今回は2本立て。つまり、稽古場でも2本の作品を同時並行で進めていきます。殺陣シーンが終わったと思ったら、今度は『オハヨウ夢見モグラ』のワンシーンへ。
『オハヨウ夢見モグラ』は、幼少期の事故が原因で、365日のうち、たった1日しか起きることができなくなった男が、夢の中で見た数奇な物語を語り聞かせる短篇集です。
今日、稽古をしたのは、その短篇の中の1篇。突然のリストラで仕事も家庭も失った男のもとに舞い込んだ「お金」と「友情」にまつわる寓話です。
PMC野郎と言えば、破壊力のあるナンセンスな笑いと高度なストーリーテリングの二段構えによる超弩級波状攻撃が持ち味。中でも、これまでの作品群でも時折見え隠れした吹原幸太のブラックなセンスが前面に押し出されたのが、この短編集と言えそう。
今回、稽古場で見せてくれた1篇も、ビターな不条理感を通奏低音に、人間の欲深さと愚かしさを暴き立てていきます。
途中、吹原さんと加藤さん、そして野口オリジナルさんの3人で熱心な話し合いが。
先程まで稽古をしていたのは、加藤さん演じるリストラされた男の感情が決壊する場面。ピークに達するまでのアプローチがまだ少し足りていない、と吹原さんは見たようです。どうすれば加藤さん演じる男の感情を極限まで追い込めるか。真剣に議論を重ねます。
そして、もう一度同じ場面を。
稽古にもかかわらず、加藤さんのこの表情。もちろんここが到達点ではありません。ここから一層精度を上げていきます。
そして、『死なない男は棺桶で二度寝する』で主人公を演じる吉田さん。終盤のシーンで、
吉田さんがそこで見せたのは、最後の一言だけ間尺をとって小さく呟くというもの。もちろん見え方としては成立しているのですが、吹原さんはその手法について「最後の手段」「もっと踏み込んでほしい」とオーダー。劇団員の小岩崎小恵さんからも「台詞が先に来てる」とアドバイスが入ります。
テクニックではなく、あくまでちゃんとモチベーションがあって、そこから出てくるものを見せてほしい。吹原さんは、そう期待を寄せます。目を伏せ、考え込む吉田さん。目指すべき山頂に向けて、まだ打ちこむハーケンが見つからない。しかし、吹原さんは「まだもう少しもがけると思うんで」と決して安易にザイルを投げることはしません。劇団員一人ひとりの成長を考えた、主宰・吹原幸太の想いが垣間見えた一場面でした。
アダルトな下ネタもなぜか許せる!生粋のエンターテイナー・PMC野郎の全力を見よ。
もちろんPMC野郎らしいバカバカしさもふんだんに盛り込まれています。下の写真は『死なない男は棺桶で二度寝する』の序盤のワンシーン。「日本で最も劇団員の乳首がよく見られる劇団」として一部ではおなじみのPMC野郎。今回も、裸一貫で勝負しています。
アホなことを全力で! ただし、お客様を決して不快にはさせない。このバランス感覚は、吹原幸太の天性の嗅覚。稽古場でも、たとえばちょっとした台詞の響きにも気を配り、ノイズになっている部分には俳優に細かく指摘をしていきます。下ネタが苦手な人でも、なぜかPMC野郎の下ネタだけは許せてしまう不思議現象も、こうした吹原さんの「お客様第一」の目配り力ゆえかもしれません。
こちらは『オハヨウ夢見モグラ』のワンシーン。写真だけ見れば、すごくシリアスな場面のようですが、やっていることは、バカバカしさの極致。
※注:とてもバカバカしいシーンです。
※注:とてもバカバカしいシーンです。
※注:とてもバカバカしいシーンです。
バカバカしいはずなのに、なぜか最後にはうっかり泣かされそうになってしまうから怖い! これが、PMC野郎なのです。
劇団としては初の2本立て公演となる『死なない男は棺桶で二度寝する』『オハヨウ夢見モグラ』。それは、普段のPMC野郎とはひと味もふた味も違う、彼らのエンターテイナーとしての多彩さを証明する公演となりそうです。
INFORMARION
今度のPMC野郎は2本立て。深い眠りにつきたい男と、夢の話をしたい男のこの世でもっとも不幸せなハッピーエンドの物語。ひと公演のみでももちろん楽しめますが、両方見ることで、いつもとちょっと違う吹原ワールドを一層深く味わえるはず。
劇場に入った瞬間、お客様は愛する家族。こだわりの演劇ファンから、小劇場に来るのは初めてというお客様まで、フレンドリーに迎え、楽しませるのがPMC野郎イズムです。環境の変化も落ち着き、ちょっと気持ちが塞ぎがちなこの季節。憂鬱な五月病もPMC野郎を見て思い切り吹き飛ばせ!
『死なない男は棺桶で二度寝する』
悠久の時を、ただ一人孤独に生きていく不死身の男。聖徳太子とイントロクイズに興じ、織田信長に王様ゲームを教えた彼の孤独を、誰も知る事は無い。何故なら、彼の正体を知ってしまった者は、誰一人として彼の事を覚えていられないからだ・・・。
一方、現代。恋人の六郎と別れようかと悩む記者の信子は、取材先の精神病院で、不死身の男の存在を聞く。
やがてそれは六郎や自身の家族、果ては時の総理大臣まで巻き込んで、遥かなる人類の歴史に、小さなうねりをもたらしていく。
自分自身の境遇を呪い、その悩みを誰とも共有できない孤独な男。
終わりなきパレードの果てに死なない男が行き着く先は、限りなく孤独な生か、限りある幸福な死か?
■作・演出・出演
吹原幸太
■出演
吉田翔吾 小岩崎小恵 加藤慎吾 野口オリジナル
増田赤カブト NPO法人 高橋ゆき 井上ほたてひも 横尾下下
(以上、ポップンマッシュルームチキン野郎)
橋本瑠果(ワタナベエンターテインメント)
<アンサンブル>
吉澤孔大(メタリンク) 横見恵
『オハヨウ夢見モグラ』
~ミケランジェロは言った。『私は作品を彫るのではない。石の中に埋まっている彫刻を取り出すのだ』~
幼少期の事故が原因で、365日のうち、たった1日しか起きることが出来なくなった男がいた。
事故から15年が経った今でも、彼にとってはたった2週間しか経っていないのと同じ。その精神状態は依然として少年のままだった。
そんなある日、彼は「夢の中で思いついた」という物語を次々と語り出す。だがその内容は、およそ少年の頭脳で考えたとは思えない程に複雑怪奇で、時に奇妙奇天烈で、そして時に学術的な命題を抱えていた・・・。
「・・・彼の中には物語が埋まっている。ミケランジェロの前の石と同じだ」
365分の1に濃縮された人生を送ることになった男が語る、様々なジャンルのストーリーを綴る珠玉の短篇集。
■作・演出・出演
吹原幸太
■出演
野口オリジナル NPO法人 加藤慎吾 小岩崎小恵
増田赤カブト 渡辺裕太 吉田翔吾 高橋ゆき 井上ほたてひも 横尾下下
(以上、ポップンマッシュルームチキン野郎)
橋本瑠果(ワタナベエンターテインメント) 今井孝祐
<アンサンブル>
吉澤孔大(メタリンク) 横見恵
■日程
2017年5月3日(水・祝)~14(日)
■会場
シアターKASSAI
■チケット料金
<自由席>3,800円
<未成年(自由席)>2,000円
<オーダーメイド席(指定席)>4,300円
※未成年(自由席)に関しては、中学生以上の方は、要身分証。R-18 は取扱無。
※オーダーメイド席(指定席)は、劇団WEB予約(こりっち)でのみ取扱。御希望に沿ったお席を指定できます。「小さい椅子でもとにかく最前列」「中央の通路沿い」「後方センターの全体が見える席」など、ご希望を何でも備考欄にお書きください。座席をキープ致します。
今月はどの舞台を観に行こうかな。と、情報をリサーチしてみても、いろんな公演がありすぎて、どれを選べばいいかわからない。新しい劇団を開拓してみたいな。と、意気込んではみたものの、どんな雰囲気かわからないとちょっとギャンブラー。そんなあなたのために、編集部がゲキオシ!したい劇団の稽古場に潜入し、その模様をレポートします。
今回、お邪魔させていただいたのは、5月3日に初日を控えるポップンマッシュルームチキン野郎(以下、PMC野郎)。昨年、初の東阪ツアーを大成功におさめたPMC野郎の2017年第1弾公演は、『死なない男は棺桶で二度寝する』『オハヨウ夢見モグラ』の2本立て。ほぼすべてのキャストが2本どちらも出演するというチャレンジングな企画の舞台裏を覗かせてもらいました。